望遠レンズには苦い思い出がある。
19歳の時にバイトで芸能プロダクションに入ったって話は、以前「一枚の履歴書」というタイトルの記事で書いたよね。
ひょんなミスから始まったこのバイト。
ファンクラブ会報の写真を撮るのが自分の仕事だった。
最初のうちは一日中タレントに張り付いて、追っかけレポート的な写真を撮る事が多かったかな。
休憩中の楽屋でふざけてる写真だったり、レストランでスタッフとの食事シーンだったり、番組収録中のこっそり隠し撮りだったりさ😊
ポートレートというよりも、どちらかと言うとスナップ風なお遊び写真をバンバン撮ってた。
よく映画のエンディングとかで、メイキング的なスライドがパッパッパって映ったりするじゃない。あんな感じの写真ばかり撮ってたんだ。
それをファンクラブ会報に載せていた。
そんな事をしながら何ヶ月かが過ぎて、なんとなくこの業界の雰囲気にもなれて来たかな?って頃、突然上司に呼ばれてこう言われたんだ。
「ちょっとさぁ、出張行ってくれる?」
「はい?」
要はタレントのスケジュールが急に変更になってしまい、しばらく東京に戻って来れなくなった。
だから次の会報用の写真をツアー先まで行ってお前が撮って来い!って話だった。
人生初の出張。行先は岡山県倉敷。
そのアーティストのコンサートが倉敷のアイビースクエアって会場であったんだ。
開演前の少しの空き時間を使って、会場周辺でロケ撮影する事になった。
会報のメインに使われる写真だって聞いていたから、思いっきりポートレートモードで張り切って撮影して帰ってきた。アーティストの魅力的な表情がたくさん撮れたと自分では思っていた。
ところが現像されたポジを見ていた上司の顔がみるみる曇ってきた。
「あなた、倉敷まで行っていったい何撮ってきたのっ!」
「これじゃ会社の裏の公園で撮っても一緒じゃないの!」
ガァ~~~ン!!!💀
やらかした!
写真が会報の表紙に使われるかもしれないって聞いて、ちょっと緊張していた。
だから撮影の時に綺麗なポートレートを意識しすぎて、中望遠レンズばかり使ってたんだ。
写真はほとんどがバストアップの構図で背景はボケてほとんど写ってない。
つまりどこで撮ったのかが全くわからない写真ばかり。
観光名所倉敷まで行って撮った意味がまるでなかった。
羽田岡山間の往復飛行機代と宿泊代が無駄に消えた。
上司は切れ者の女性だったんだが、この時はかなり手厳しく怒られたよ。
すごく落ち込んで、しばらくは事務所のデスクでぼうぜんとして動けなかった。
そんなこんなで、何度も失敗して怒られて凹んでばかりのバイトだったけど、今振り返ってみると嫌なことよりも楽しかったことばかり思い出す。
見るもの聞くものすべてが知らない世界、驚きの連続だった。
芸能プロダクションだからかな?会社だというのに、めちゃくちゃ面白い大人たちがたくさんいる職場だった。
デスクで歯磨きながら電話で怒鳴ってるマネージャーがいたり、出社してコート脱いだら下がパジャマだったエライ人がいたり、それを「あっ・・・パジャマだ」って妙に冷静に指さす女性デスクもちょっと普通じゃない😅
そんな中で19歳だった自分はもみくちゃにされながら、少しずつその独特な周りの雰囲気に溶け込んでいった。お仕事の写真もたくさん撮ったよ。
でもだんだんと忙しくなって出張の回数も増えて、気が付いたら大学にはほとんど行けなくなっていた。
その結果、単位不足で留年が決まった。
さんざん悩んだ挙句、やはり大学はどうしても卒業したかったからね。
やむなくバイトを辞める事にしたんだ。
いま思えば世間知らずの若僧が、生まれて初めて味わったオトナ社会でのバイトだった。
ひょんなことから飛び込んじゃった、芸能界というちょっとフツウじゃない世界での七転び八起き😊。
最高のバイトだったよ。