歳を重ねるほどに
遠い過去の記憶は鮮明となり
新しい記憶は薄れてゆく
by binpaku
子供の頃に東京都目黒区の祖母の家に住んでいた時期があった。
その家はまだ水道を引いていなかった。
庭の片隅に電動のポンブが置かれていて、それで井戸水を汲み上げていたんだ。
当時は東京都内でも井戸を使う世帯が、まだかなりあったんだよ。
飲用も含め生活に必要な水は全てその井戸水でまかなっていた。
夏はすごく冷たくて気持ち良かった。
たらいに張った井戸水にスイカを浮かべて冷やしたりもしたよ。
今では懐かしい夏の風物詩だね。
外から汗まみれで帰って来て蛇口をひねる。冷蔵庫で冷やしたようなコップ1杯の井戸の水はほんとうに美味しかった。
ホースで冷たい水を飛ばしながら、飼っていた犬と一緒にびしょ濡れになるまで水遊びもした。
ところがある日、保健所の人たちがぞろぞろとやって来て、井戸水の水質検査をした。
その結果 "飲用には適さない" という判定。
「飲んだら身体に良くないんだって」
家族にそう言われた。
なぜか少し悲しかった。
それ以降、ポンプの井戸水は飲めなくなり、風呂や洗い物、庭の水撒き専用になった。
それでも暑い日には、隠れて内緒で飲んでたけどね(^^ )
冷たくて美味しかった夏の井戸の思い出。